影のユメというわけではありませんが影というと思い出すのが 其れに纏る伝承です。 例えば吸血鬼は鏡に写らないとか、化け猫が障子に写る影でその本性が 看破されたりと。 これもある種の因習や事実を伝えるものだとしたら・・。 或いは化生のものを非日常なものとして その境界線に影という符合があるとすれば 現在の非日常者達と日常者達との境界をくぎるものとして 未だに存在する「鏡」の役割を果たし続けているのかもしれません。 つまり鏡に写らないもの-影を残すものが化生であるように 影のユメを見るもの-現実世界の果てまで非日常(ユメ)の残滓をひきずるもの-非日常者-現在世界での化生-なのかもしれません。 では、影の無い世界とはどのようなものなのでしょうか? 我々が棲んでいるこの世界にも影のない、いや、影の出来ない世界といったものが 存在しています。 確かに夜は影ができづらいでしょうがそれではあまりにも不完全です。 明かりの無い古代世界でさえ月が影をつくり現実とユメとの境界線をいとも簡単にひいてしまうからです。 影のない世界は我々人類が地上に登場する遥か古代から存在し、 しかもそこにはその環境にきちんと適応した住人達が棲んでいます。
|
深度300メートルから下にひろがる闇の世界を我々は深海と呼びます。 その世界は遥か古代から黎明と続いた黄昏の世界でそこに住む住人達は 影の存在さえ認識したことがないでしょう。 深海を生活域にしたこれら深海魚の多くは古代からあまり進化していないものが多いとされています。 一番古い種類のサメはやはり深海にすんでおりますし、リュウグウノツカイのようにその生態型すら 把握できない不思議な生き物が他にも多く棲んでいるようです。 いまでもタマに捕まって新聞等をにぎわすシーラカンスもやはり、この影のできない国の住人なのです。 特に前述したシーラカンスに至ってはモトモト化石等で発見される同種のものは 体長8センチ位しかないものも多いというのに、現在発見されている種は軽く1メートルを超える大型魚なのです。 果たして一体なにが彼等に起こったのかは知る由もありませんが それの一番理由として上げられるのが生活環境の変化だといわれています。 つまり、古代のシーラカンスは比較的浅瀬に多く分布する魚で化石も大半はそういった場所から発見されているのです。 ただ、生活環境が変化したというだけのことで果たしてシーラカンスのように悠久の時間を生き延びられるものなのでしょうか? 私にはこれもまた影という因子がなせるワザに思えてならないのです。
|
つまり、もし貴方が現実生活のなかでの狂気に脅えるなら、そしてもし狂気というものが 影という符合のなかである一定の法則性 (影のユメを見るものは狂気のなかに暮らしていて、影のユメを見ないものはその狂気の枠の外に暮らしている) に寄り添うものだとしたら 狂気に出会わない為にはあらかじめ影の無い国の住人になれば良いのです。 そうすれば万が一影のユメを見たとしてもそれを現実として考えればいいだけのことで、 貴方は境界線をなくした時間のなかで永遠にユメを彷徨うことができるはずです。 そう考えれば 深海という影のない国の住民達がえいえいと時間を微睡むように生きてきたことにも説明がつくような気がします。
|
この奇妙な因果律を見つけたころ私の周囲は狂気で埋め尽くされていました
僅かばかりのクスリを手に入れるために4年間も一緒に暮らしていた恋人を ヤクザに衝動的に売り飛ばしてしまってしまったとか 自分が捉えようもない強大な牢獄に(それは街の十字路や、袋小路にしかけられた鏡や ガラスの反射、複製によって迷路化して街を封鎖するものだという)封じられていて そこからでるきっかけをえるために雨が降るたびに外へでて髪をむしって歩かねばならず常に頭から血を流しているやつとか・・。 自分以外のなにものも信じられず、一日中自分の糞尿を食い続けて結局救急車の世話になってしまったやつもいました 口から泡を飛ばして宇宙人や神の類いの救世主の降臨を叫び続けるものは枚挙に暇がなく もう少し自制心を残していた連中はことごとく クスリのなかに限定つきで残された自我に埋没していきました
狂気という強大な袋小路は徐々に歩幅をせばめ 我々の感性と生活をゆっくりと確実にむしばんでいきました 在るとき汚れて傷だらけになったフィルムを見ているうちに 仲間だった誰かがいきなり5階の窓から飛び降りたことを きっかけに狂気に捕まれていた仲間のうちの何人かは 自主的に治るはずもない狂気を、治すつもりもない 病院へと居場所をかえ、残ったうちの何人かは強制的に 同じ場所に送られました
この奇妙な因果律は残された仲間を救うためのシステムを探すうちに 見つけたもののひとつでした でもこれだけではあまりにも不十分だったため 私はもう一つの古来から伝えられていた 方法を試すことを考えました
|