夜帰りに何時も通るビルの壁面になにか赤いモノが貼り付いているようにみえました。
なんだろうとおもって良く見てみたらそれは赤い女でした。
身につけているものがということではなく髪も皮膚も眼球も塗りつぶしたように赤い女がビルの壁面に貼り付いていたのです。
だがそれはとても奇妙なことなのに誰も騒ぎ立てません。
よくわからないが気にはなるのでなんとなく通うようになって理解できたのですがどうも見えるのは自分だけらしいのです。
あの女はなんなのだろう?
何故あんなところに貼り付いているのだろう?
そもそもどうして自分にしかみえてないんだ?
精神がおかしくなってしまったのか?
そうやって通うのが日課になってしまったある日話しかけて来る人間がいました。
坊主頭で耳の後ろを白く塗っていて・・。
彼は私が見ている女が「緋色の女」と呼ばれるものであれは世界がほころび始めたときにあらわれる端緒の糸のようなものだと教えてくれました。
つまり誰かが不用意に「緋色の女」に触れるとそこから一気に世界がほころんでしまうというのです。
そして、彼は訊ねました
私にとってこの世界は大切なものなのかと。
もし守りたいのならあのビルの壁面に貼り付いている「緋色の女」と対決しなくてはならない。
失敗すればこの世界はほころびて消えてしまうが遅かれ早かれ「緋色の女」があらわれた以上消えてしまうのは決まっているのだから結果は気にしなくてもよい 大切なのは私が自らと世界の破滅を賭して彼女と闘う意志があるのかどうかなのだ と。
彼の説明によれば世界は約束事によって成り立っていてそれはいままでの全ての世界がそうであったようにこの世界も約束事で成立している
ところがそこに暮らす人々の煩雑な意識と欲求そのものが澱となってたまりすぎると「緋色の女」の出現によってコップに溢れる水のように崩壊してまた新しい世界がはじまるのだ と。
世界は何枚もの薄い紙を合わせたような構造で成り立っていて都合が悪くなればその一番上の紙を破いて新しく描かれる絵にすぎないのだ と。
我々はそれが誰の描いた絵なのかを知るどころか何ヒトツ疑うことなくただ暮しているだけのことなのだと
だからそれ自体にはなにひとつ意味はない 世界が滅べばそこに在るなにもかもが消え去り新しい世界がはじまるだけのことなのでその事をだれヒトリ悲しむ事も苦しむ事もなく終わるのだから イヤならともに滅びればいいだけのことなのだと
で、結局私は「緋色の女」と闘う事になるのですがそのための力を得るということはこの世界の約束事から離れてしまう事を意味していてそれはもう戻る事のできない道を選んでしまうことでした。
その「耳の後ろを白く縫った男」とその眷属たちはこの世界が成立する以前に私と同じように緋色の女をみて 闘うという意志を選択し その結果全ての世界の約束事から切り離されて 孤立して彷徨するしかなくなってしまった哀れな亡霊のような存在だというのです。
私は「緋色の女」と闘わなければならなくなりました でも それは世界のほころびをはやめるだけなのかもしれません。
それでも私にはそれ以外の選択肢がなくコンクリートで囲まれた黴だらけの小さな地下室で私達は闘うための準備をしています。
「耳の後ろを白く縫った男」はさっきまでコップの中の水で白っちゃけた眼球を洗っていましたが「緋色の女」の様子を見に行くといって何時のまにかいなくなってしまいました。
そうしたら コップのなかの眼球はイツのまにか 根元から千切れた私の指になっていてそれで「緋色の女」の攻撃がはじまっているのにはじめて気がついたんです。
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