両眼球狂orHunter 

 




 

女達はテレビジョンを見ています。


それは非常に大きなもので女達の中で一番大柄な女の背丈の更に倍ほどもあるものでした。

湿気で黴だらけになり黒い大きなシミがそこら中にできたコンクリートの壁面に埋め込まれています。

モニター前面にゼラチンに酸化アルミニウムの超微細な金属粉が混ぜ込まれたものが指の長さ程度の厚さに均一に塗り込められているために部屋の照明を完全に落とさない限り何も見えません。

女達は全部で3人、毎朝この湿気たモニター室で一日の48分の1に当たる時間を過ごすことが日課となっていました。

そのモニターがぼんやりとようやく写し出しているのは女達がいるこの地下深く作られた自沈式の(それはこの星が親星のまわりを一周するあいだに女達の背丈ホドを沈んでいきその際に発生する多種の運動エネルギー、摩擦熱や静電気をエネルギーにかえて蓄積している)トーチカめいた建造物と地上をつなぐ唯一の出入り口です。

モニターに偏執強的に塗り込められたゼラチンのせいでそれもぼやけたシミのようにしかみえませんが、時折はしるノイズや画像のみだれが彼女たちの今日1日の作業内要をきめるための重要な予兆になるのです。

その予兆を解析してスケジュールを組むのはいつも一番大柄な赤い女でした。

アトの2人は白い女と黒い女でとても良く似ていましたが性格はまるで違っていました。
ですから今日もモニターに写ったものについての解釈から2人に違う仕事がそれぞれ振り分けられたのですがそれに対しての反応がまるで違っておりました。

 

「いやよ!アタシはバラに水をあげなければならないのよ。水槽の掃除なんてやってたら手がふやけてしまうじゃない!」と黒い女は白い女を睨みつけるようにして赤い女に文句をいいました。
「手がふやけてしまうとなにが困るんだい?」と赤い女が尋ねると
「だって、手がふやけてしまうとバラの棘がささりやすくなって、そのまま指のなかに入ってしまうかもしれないのよ」と黒い女は答えます。
「でも,.・・・」白い女は小さな声で反論しました。
「ここにはバラなんてないわ、多分一本も・・・。」
「なに言ってるの?じゃぁ、私が毎日水をあげているあれはなんだっていうの?あれは・・・・」
黒い女は赤い女に救いを求めるような視線を送りました。
「そのバラには毎日水をあげてるんだろう?」
「えぇ、毎日、そうしないとバラはすぐに萎れて・・小さな小さなあの緑色のいやったらしい虫がびっしりはりついて・・触ったことがあります?・・あぁ、あぁ、なんであんな生き物がいるんだろう?もう、考えただけでも身体中に湿疹がでそうになる・・」
「わかったわ、もういいわよ。じゃぁ、水槽の掃除はあなたがやっといてね」
「え?私がですか?」
「そうよ、あなた以外には誰にも頼めないわ」赤い女は吃然と言い放ちました。
「私、昨日も、その前もずっと水槽を洗ってるわ」
「しょうがないじゃない、だって私達は昨日もその前もずっと影を見てないんだもの。あなたはここのところ立て続けに見てるじゃない?昨日だって見たんでしょう?」
「そう」黒い女は赤い女に続けていいました。
「私もバラには毎日水をあげてるけど肝心の影はまだ見てないわ。もう少しなのよ。金色のじょうろに水をたっぷり入れてそこを覗き込むのよ。今日こそやってみせるわ!」

 

 

 


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