怪物
私が路地に隠れていると いつものように彼が現れます。
彼は事故で体の多くを失い機械に残った体を埋め込んで生きているので見た目はまるで大きなクレーン車の残骸のようです。
その錆びた大きな体をきしませながら 彼は私を探しているのです。
彼はいつも決まった時間にここを通り私はいつもこの時間にここにいるのです。
彼はそのことを知っているのでいつもここで私を探します。
それで私はいつも見つからないように小さくなって排水溝のなかや下水溝等に隠れているのですが今日は一旦はやり過ごしたと思って通りに出た所を彼に捕まってしまいました。
彼だと思っていたのは調子が悪くてオイルをまき散らしながら走っている大きな廃水処理車だったんです。
バンパーが外れかけてガタガタいう音を彼が錆びた足を引きずるようにして歩く音だと勘違いしてしまったのです。
彼の4つあるそれぞれ違った腕の一番小さな(機械油と蒸気で黒い粘土のように固まった)触手に摘まれて眼下には道路とこすれながら火花を散らす彼の足が見えています。
それからしばらく 多分 30分くらいして街の一番外れにある少し枯れた蔦が外壁にはり付いている製糸工場のあたりで彼はようやく動きを止めると私を彼の口らしきところに押し込みました。
口の中とは言っても所詮は継ぎ接ぎだらけの機械なものですから中から傷んだレンガの壁がみえて枯れた蔦に絡まるようにして死んでいる鳥の死骸まで良く見えるのです。
でも その継ぎ接ぎだらけ機械のなかから無数の小さな細く尖った刃や錐のようなものが出て来て私を解体していきます。
私は体のあちこちから少しづつ切り離されて機械に飲み込まれていきました。
そうやってすっかり日が落ちた頃 私は彼の頭部に埋め込まれていて彼そのものになっていたのです。
さて これから どこへ行こうかと考えるのですが それよりこの格好が気になってしょうがありません。
どこへ行こうがなにをしようがかくしようも無いしそのうえ音はひと際うるさいんです。
これじゃ どこへ行っても気に入られないんだろうな と不安になるのです。