2007/1/19 月柱
 
 

 

 

 

 

 

 

たくさんの亡骸を

 

抱えて

 

月は

 

砂の中で眠っています

 

 

 

 

でも長い髪が

 

汚れて乾いた油と緑の錆びが浮いた

 

古い機械に絡みつき

 

それが気になって

 

 

うまく

 

 

スープが啜れません

 

 

 

すっかり干上がった河原にはタクサンの流された馬の死骸が上がり

 

それがカラカラに乾いて

 

干上がり

 

腐敗した胃袋が

 

焼かれた街の

 

融けて丸まったガラスのように

 

膨れ上がっているそうです

 

 

 

そういうことを

 

何度も

 

はなしたいと

 

おもうのですが

 

 

月は亡骸の中から帰って来る様子は無さそうです

 

 

柱にただ下がっている時計が

 

 

 

 

 

 

そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だれにも必要のない時間を打つています

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2007/1/24 月塔

 

 

 

 

  

 

月から漸く見える

 

 

 

高い

 

塔からは

 

   馬

   の

   死

   骸

   が

   吊

   り

   さ

   げ

   ら

   れ

   て

   い

   て

 

 

   そのずっと下に広がる

 

 

夜の海で

 

 

小人達が

 

貝を拾っている

 

 

 

誰も気がつかないので

 

いつも世界はそこで終わってしまうが

 

時間は無限に繰り返しているわけではない

 

 

 

砂はいつのまにかカラダのスキマというスキマに入り込んでくるので

 

軋んだ扉は蝋のように融けはじめる

 

 

 

私は常に私ではなく

 

 

 

それは

 

 

 

あるべき主人を失った亡霊のようなものにすぎない

 

 

そう考えれば

 

 

この世界にも終りが近づいている事を

 

塔の住人たちは理解していることになる

 

 

馬は随分前から膨れ上がっていて

 

 

 

 

 

 

を流しているが

 

小人たちがそれを啜ることはないだろう

 

 

今は

 

 

何時でも

 

ただそれだけのことだ

 

 

 

どれだけ多くの命で購われた

 

 

 

 

 

 

 

 

であれ

 

 

それが永遠に平穏であることはない

 

 

 

 

だとすれば

 

 

祈りは

 

 

 

 

 

どこへとどくのだろうか?

 

 

 

 

 

 

海はいつも砂の向こうへと広がっていて

 

 

私はまた貝のように押し黙るのだ

 

 

 

 

そして月に炙られて

 

すっかり

 

肥大してしまった小人が

 

 

 

 

やがて

 

 

 

 

私の背中を割り

 

 

 

 

啜るのだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが

 

 

 

それは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2007/1  月のまえに

 

 

いつも夜を想い暮らしています

 

 

彼岸にいる

 

 

あまりにもたくさんの羽虫が

 

 

網膜を齧るので私は夜の

 

 

ヌルイ

 

 

 

 

 

 

かくれねばなりません

 

 

 

沈澱した泥の下に不幸な大勢の死骸が

 

 

毀れた貝のように繋がり群がっています

 

 

たぶん

 

 

そのそばに

 

 

 

私はかくれています

 

 

弾けた鳳仙花が

 

 

目蓋に貼り付いて

 

 

痒くて眼球を掻きむしり

 

 

濡れたツメで

 

 

果物の皮を剥きます

 

 

彼岸はいつも

 

 

そういう場所で

 

 

どこにも私がいる場所はありません。

 

 

 

 

2007/1 忘虫
 
 

は        リ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私  は  私  の  約  束  事  の  世  界  に  棲  む  緋  色  の  忘  虫  で  あ  り  た  い

 

 

 

2007/4/21 背骨から月へと 直線を引く

 

 

 

 

 

 

世界は終りながら

 

揺らめいて

 

私は

 

否定的ではあっても

 

笑いながら

 

死を迎えます

 

 

だが

 

 

その事だけを考えれば

 

自分が悲劇の幕間に

 

いるようで

 

ただただ

 

滑稽なだけなのですが

 

 

それでも

 

 

恐ろしいなどということは

 

やはり

 

理解できず

 

多分

 

まだ

 

私は

 

緞帳の襞にかくれた

 

たくさんの

 

羽虫が

 

時間を

 

貪るのを

 

ただ眺めている

 

貧弱な

 

性器のような

 

 

 

とてもつまらない存在に過ぎません

 

 

 

馬が

 

 

とても大きな

 

 

裸馬が

 

月の下で

 

夜のなかを走ります。

 

 

ガスが溜まって

 

すっかり膨れ上がった

 

赤い胃袋や青くなった腸を引きづりながら

 

濡れた砂の縁を走るのでしょうか?

 

 

誰に聞けば

 

その

 

答えがかえってくるのか

 

それすらもわからないまま

 

 

私は随分と

 

 

 

 

い 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間を繰り返してしまいました。

 

 

 

 

もろもろと

 

歯が毀れ

 

ゆっくり

 

崩れ始めた

 

躯が

 

それはとても厄介なのですが

 

それでも

 

瓦礫の下になった

 

母親や恋人を掘りおこさなけばなりません

 

 

 

割れた爪から

 

ゆっくり流れはじめるる血は

 

今夜の

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なのでしょうか?

 

 

そう思って月を

 

眼球が

 

捜し始めた

 

刹那

 

 

一斉に

 

羽虫が

 

 

 

それは賑やかに 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         け

 

         た

 

         た

 

         ま

 

         し

 

         く

 

 

 

 

 

 

 

 

私の 背中を 

 

 

 

 

 

 

 

         背

 

         骨

 

         を

 

 

 

 

 

 

割って

 

夜に向かって

 

 

 

 

 

 ビ

 

  ダ

 

   シ

 

    テ

 

     イ

 

      キ

 

       マ

 

        シ

 

         タ

 

 

 

 

 

それはあまりに見事だったので

 

 

私は

 

しばらくの間

 

 

 

月を

 

 

 

捜すのを

 

 

 

 

 

 

忘れています

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2007/6/21 眼球ト月

 

 

 

歯茎から

 

 

流れ続ける

 

 

夕暮れのように

 

 

 

 

 

  

       血

 

 

 

 

 

 

 

       が

 

 

 

 

 

 

まだ止まらない

 

 

 

 

 

 

        (だから)

 

 

 

 

 

誰もしらない

 

 

 

 

 

 

 

      空  

 

 

 

 

      

      

      を

 

 

 

 

 

 

 

死に逝くものたちが

 

 

錆びた足をかくしながら

 

 

 

    (ゆっくりと)

 

 

 

歩きはじめる

 

 

 

 

なんのあてさえもなく

 

 

いま

 

 

夜はやってこようとしている

 

 

 

鏡にうつる 

 

 

影は

 

 

誰のための骸だろう

 

 

 

足下から湧きだした大きな羽虫が

 

 

床を塗らした心臓を齧っている

 

 

 

 

 

 

見ることさえできない古い地平に

 

 

赤い月が浮かぶ

 

 

黒い雲に見えるのは

 

 

馬をかくす

 

 

歪な小人達だろう

 

 

 

  (そして)

 

 

 

やがて滅びる世界のために

 

 

ただただ今日を生き延びている

 

 

それがこれから始まる夜の正体だとすれば

 

 

おまえのついたウソが

 

 

たくさんの犬を殺すだろう

 

 

 

それでもほんの小さな小人にすぎないので

 

 

塔の上から私は海に落ちていく

 

 

 

 

 

それはもちろん救済のためなどではなくてだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
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